北米班(国語研)研究会「北米における日本関連在外資料調査研究・活用―言語生活史研究に基づいた近現代の在外資料論の構築―」が、去る6月26日(土)、開催されました。オンライン方式で53人の参加者がありました。
シンポジウムは大きく二部構成とされ、第1部では、本プロジェクト代表・朝日祥之准教授(国語研)から「海を渡った日本語」に注目したプロジェクト立案の背景や調査・研究の進行状況、原山浩介准教授(日本大学)からは、「日系社会に関連する資料の収集・整備を通じた『在外資料論』構築の試み」について報告がありました。特に、朝日准教授からは、ハワイ出身の沖縄系、帰米二世、アメリカ陸軍兵士、占領軍通訳など多様な背景を持つ比嘉トーマス太郎と彼をめぐる史資料群という研究対象にたどり着いた経緯とともに、プロジェクトの最終目標ともいえる「在外資料論」の構築についての展望が示されました。(図1参照)また、原山准教授からは、特に「保存されにくい」移民資料を含む近現代史資料一般の危機的状況が示され、そうした中に合って、研究者が当面これらの問題にどのように対処すべきかなどについて、具体例にもとづく報告が行われました。
また、第2部では、秋山かおり氏(日本学術振興会 特別研究員 PD/関西学院大学)による「『捕虜』収容所のなかの芝居と歌―ハワイと沖縄の共時性―」、井上史氏(Boston College大学院)による「比嘉トーマス太郎研究の意義および課題の検討英語圏の歴史研究との対話を通じて」という研究発表があり、これらの発表の後、活発な質疑応答が行われました。
秋山氏の報告では、終戦直後のハワイと沖縄において、米軍管理下の収容所で沖縄人捕虜や日本人捕虜たちによって芝居が復興し行われた事実が紹介されました。ハワイと沖縄での調査や貴重なインタビュー記録によって、それらが二つの場所での共時性を持った現象であった点や収容所という特殊な場で、沖縄芝居や歌という「伝統」が沖縄人捕虜たちによって継承され、再構築されていく過程が明らかにされました。(図2参照)
井上氏の報告では、研究史における比嘉太郎の位置づけの分析から、軍事史・移民史・沖縄研究において周縁化された比嘉像の掘り下げが未開拓である点が指摘されました。また、構築された比嘉の「英雄」像をいかに克服するかという本質主義からの脱却とともに、彼の持つ二面性・多面性・境界性・トランスナショナルな面を酌量しながら、個人の重層性を明らかにしていくという今後の研究の方向性が示されました。
以上、日本本土、沖縄、ハワイ、北米にまたがったフィールドを横断的に視野に収めた研究の諸成果が明らかにされるとともに、現実に即した在外資料論を構築していくという方向性が提示され、北米プロジェクトの蓄積と今後のさらなる展開が期待される内容でした。