平成31年~令和2年の活動

日本関連在外資料伝播航路マップ

 「プロジェクト間連携による研究成果活用」班(研究成果活用班)は、ネットワーク型基幹研究プロジェクト日本関連在外資料調査研究 ・活用事業の各プロジェクトを主導し統括するため、日文研におかれた拠点であり、それぞれのプロジェクトを連携し、それらの研究成果を活用・発信していく、という役割を担っている。
 研究成果活用班では、2018年度より、在外各プロジェクトとの連携と成果活用の象徴的事業として、オランダ商館文書の伝播を例に「日本関連在外資料の伝播経路マップ」(以下「航路マップ」)の作成と可視化を試みている。まず、そのテストケースとして、平戸班クレインス日文研教授の協力を得つつ、同班が扱ってきたオランダ商館文書が欧州に伝播された一経路の3Dマップ上での再現に着手した。
  本航路マップの3Dマップ化については、当初技術的に多くの困難を抱えていた。試行錯誤を繰り返すうちに、 京都大学大学院理学研究科・地球物理学教室のチームが開発した「ダジックアース デジタル地球儀」のシステムを活用させていただけることとなった。特に、同チームの齊藤昭則准教授、安藤慧氏には、本航路マップ作成に格別のご支援をいただいた。この場を借りて、深く感謝を申し上げる次第である。

在外日本関係資料の伝播経路マップ①:徳川家康からオラニエ公マウリッツへの書簡

 1602年に設立されたオランダ東インド会社(V.O.C.)は、ポルトガルに対抗して東インドでの商圏拡大を図り、しばしば艦隊を派遣した。1609(慶応14)年7月に、ローデ・レーウ・メット・ペイレン号(Roude Leeuw met Pylen)とフリフィウン号(Griffioen)が九州の平戸に到着。アブラハム・ファン・デン・ブロックとニコラス・ピュイックら上級商務員が駿府で徳川家康に謁見し、オラニエ公マウリッツ(オランダ共和国連邦総督)の親書と印字などを献上。8月24日、家康はマウリッツへの返書と朱印状を両使に与えた。両使は、家康書簡を携えて平戸へ戻り、10月2日から3日にかけて、ローデ・レーウ・メット・ペイレン号で平戸を出航した。書簡は、南澳島、パタニ、バンタム、喜望峰、セントヘレナ島を経て、1610年7月21日、テクセルに到着。アムステルダムを経て、ハーグのマウリッツに届けられた。
 本航路マップでは、1609年に徳川家康よりマウリッツ・オランダ総督に宛に送られた書簡の伝播ルート再現の試みとその寄港地を視覚化し、マップ作成を通じた日本関連在外資料の伝播経路の可視化を試みている。

異文化へのあこがれ

─国際海洋都市 平戸とマカオを舞台に─在外資料が変える日本研究─
2020年度 オンライン版
Yearning for Foreign Cultures
An International Symposium in Hirado and A Panel in Macau New Aspects of Japanese Studies based on Overseas Documents
online edition (2020)

稲賀繁美   編
Ed. by INAGA Shigemi
Head of the Project Coordination Meeting
–Suishinkaigi With the assistance of NEGAWA Sachio

序文

Preface

 本報告書は、人間文化研究機構で第3期中期計画期間に推進されている「ネットワーク型基幹研究プロジェクト」を構成する17におよぶ研究企画のうち、「日本関連在外資料調査研究・活用事業」に属する「プロジェクト間連携による研究成果活用」に関連する業績を、2019 年度終了時点での、前半期3年の成果報告の一環としてまとめた論集であり、これは2019 年度の事業報告の一部をなす。

 前半の第1部は、2019 年2 月9 日に、平戸市の平戸オランダ商館で、平戸市、(公財)松浦史料博物館、平戸オランダ商館の共催のもとに組織した「国際海洋都市平戸と異文化へのあこがれ─在外資料が変える日本研究─」での講演および発表論文を中心に構成する。

 後半の第2部は、2019年7月31日にマカオで開催された国際比較文学会ICLA: International Comparative Literature Associationの世界大会において、提案のうえ採用されたワークショップMarine Vessel and Road as a Socializing Vehicle: Enroute Experiences, Transnational Encounters and Exchangesでの英文発表を再録した。

 これらはともに、標記のプロジェクトの成果の社会還元・国際的な成果発信および一般市民を含む社会との学術交流の一環をなす。またその遂行にあたっては、人間文化研究機構の特別経費の支給を受けた。最後に、本報告書に関連する企画にご賛同・ご協力を得た各方面の機関にあらためて御礼の言葉を申し添える。

推進会議・総括責任者 稲賀繁美